日本の国はさまざまな植物がいたる所に生息する豊かな森に恵まれ、私たちの先人は、古くから手を入れ再生させながら懸命に鎮守の森を守ってきました。
四季折々の姿をみせる日本の森では、春になると新芽が吹き出し、緑鮮やかに命の息吹が森に充満します。夏を過ぎやがて森は黄や赤色に染まり、冬枯れへときには白化粧してさまざまな姿を見せてくれます。常に変化しながらとどまることがない自然に、人々は時には自然のありがたさを思い、うつろいに悲哀をみいだし、自然の摂理を見つめてきました。
熊野の森は複雑に多種多様な生き物たちが生息する常緑樹の大森林でした。
都からは遠くはなれ、雨が多く鬱蒼とした森は、幽玄の世界を形成して、森の霊気にふれ、石や大木に神々を降臨させて祈りを捧げる太古の信仰をかたちづくる宇宙がありました。
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しかし、近年熊野の多くの森は伐採によって消えていき、原始の姿をみせる照葉樹の森はわずかに残されるばかりになっています。
森を神とし崇めてきた熊野信仰をたどり、わずかに遺された貴重な森にふれると、忘れ去った心の遺産が見えてくるのかもしれません。
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