深い森、険しい山々が連なる紀伊山地。古代から中世、近世まで、人々は神々の魂にふれるこの遠い道のりを歩きました。熊野古道は、聖地熊野にある熊野三山すなわち本宮大社、速玉大社、那智大社を目指す信仰の道です。
「馬にて参れば苦行ならず」というように、歩くこと自体が修行であり、その一歩は神仏の加護に近づく第一歩でもありました。
熊野へ至る古道は、中辺路、大辺路、小辺路、大峯奥駈道、伊勢路などがあり、千年以上にわたって人々の願いを運んできました。
熊野古道の主なルートは京都から大阪、和歌山田辺を経て山中に入る中辺路です。熊野古道を代表する中辺路は、熊野権現の御子神を祀る王子社跡を結んで山道が良く遺り、熊野詣での人々が行き交った当時の様子を思い起こさせます。
大辺路は田辺から新宮に向かって雄大な太平洋を眺めながら進む参詣道です。
鬱蒼たる山中をひたすら歩く中辺路の荘厳な空気とは対照的に、南紀州の開放的な自然が旅人に大きな安らぎを与えたに違いありません。
小辺路は空海が開いた聖地・高野山から熊野三山まで、ほぼ一直線に南下する。熊野三千六百峰と形容される険しい山々を越える参詣道です。